夏、君の誕生日を思い出した

2023/09/03 04:20-

 夏の終わりは8月だと信じて疑わなかったのは、いつまでだっただろう、なんとなく冬服へと制服が変わる、なんとなく毛布を出す、なんとなく散歩をするようになる。そんな曖昧な季節の移り変わりの感覚で生きてきた。夏だけになってしまったらどうしよう。

 

 君の誕生日を祝えるといいな、と思いながら、自分の誕生日を迎えた。もう年を取らない君の誕生日を祝うことに、意味なんて見出せないはず、全部脆い理由だ。そうでしょう、君をどこに探しに行けばいいんだろうか。どこに行けば君が生きていたことをなぞれるのだろう、どこに行けば、君に会えるチャンスがあるのだろうか。終わりのない、わかりきった、八つ当たりのような問いなんていらないでしょ、それでもこうやってずっと頭から離れない。君の歌声を聞くと、望んでもいないのに胸が苦しくなって、私の悲しみが勝手に浮かんできてしまうのだ、私の持つどうにも埋められない虚しさや癒せない痛みを、君が簡単に連れ出していくのだ、君はもういないのに。

君の誕生日は尊い 星が降り、すべての音が美しくなる。私は言祝ぐことしかできない、祈ることしかできないのに、君は光り輝く。声も名前もそのしぐさのひとつすら、煌いている。

 

いなくなってしまった君のことを、縋るように探している。一度だって会うことの叶わなかった君のことを、君と呼んで、まるで親しかったかのように呼び続けるのだ。私以外の全ての人が気味悪がっていることを知っている、きっと私がおかしい。会うこともなかった君のことを思い出しては、君の声を聴いては、まるで世界に君だけが選ばれたかのような気分になる、心臓が痛んで、恋しさすら覚える。

 

君の誕生日を覚えている。君の名前を忘れたりしない、私はまだ誕生日を祝えるから、だからきっと大丈夫。春夏秋冬、すべての季節と日々を、絶対に生き延びて君のことを祝い続けるから。

 

もしも叶うのならば、どうか一度だけ、私の虹彩の色を見て。神秘のかけらもない私の目を、どこにも行けない私の目を見て。私はその時、きっと君の虹彩の色を知る。その奥に広がる銀河に触れて、もう一度太陽が昇ることを、宇宙の終わりを、君の眩さをDNAに焼き付ける。二度と忘れたりすることがないように。

 

君をエゴでこの世に縛り付けているのはどう考えたって私だ。

その罪なんて全部地獄で償うから、どうしてとまだ言わせて。

 

夏は失ったものを思い出すのだ、だから、まだ夏のはず。04:57