あまりにも深い昼

 太陽の光の中にいるときこそ、いつよりもずっと孤独に感じることがある。本当に自分だけ、ひとりっきりみたいだ、とか、太陽は羨ましいあの子みたいだ、とか思ったこともあるけれど、それだけが理由じゃないはず。

 いつかできる恋人の話をする君がキラキラしてみえる。私はいつだって笑うしかないのに、君は幸せそうで羨ましい。羨ましいのかな、それもわからない。

 

 会ったこともない人の死についての感情が、突然身体から溢れて泣きたくなることがある、というと本当に変人だと思われそうで困る。みんなそうでしょう?あんなに苦しいことってないじゃないか。この世界でその声はもう現実に存在しないんだとか、あの人の体温はもうずっと前に失われてしまっただとか、そういうことに耐えられなくなる。なのに自分がここで生きてこんな感情を抱いていることの歪さや気持ち悪さも同時にわかっていてむなしくなる。

 

 昼、カーテンから漏れ出る光とスマホとパソコンの光だけを頼りに生きているとき、まるでカーテンの向こうの存在なんてどうでもよくなる。助けてほしいは嘘っぱちだ、本当は救われることがないことを知っている。自分ひとりで立ち上がることが必要だ、とずっと知っている。誰かを頼れるのは赦しを得ている人だけだ。罪人はその罪を贖い続けるしかない、だれも手を差し伸べない、そういうもので、そういう世界だ。ずっとそう思っている。

 ありがとう、楽しかったは、99%うそ。口から溢れる言葉は常に悪いこと。考えていることはいつだって排他的で自己中心的。偉そうに誰かの文句を言うけれど、自分がちゃんとしているわけではずっとない。

 頑張ろう、頑張らなきゃ、ああ死にたいなをずっと繰り返して、星にもなれないからボイジャーを追いかけたい。永遠に追いつけないとしっていてそれでもあのディスクを抱いて、独りぼっちで宇宙をさまよっていたい。どうせここにいても彷徨って間違ってなにもできなくて、焦ってもっとわからなくなって、そうやってひとりで生きていくしかない。

 君という存在ができたことが一度だってないよ、ずっと誰かを疑って生きている。本当に信頼するなんてこの人生じゃ一回もできずに終わっちゃうんだろうなと思っている。本当に死んでしまえるなら早く死んでしまいたい。自分に価値を見出すことをしないと誰も助けられない世界がムカつく。この命に価値なんてないのに、本当にどこにだって意義も美しさもその意味もないままでただここにあるだけで、ただここにあるだけで価値があるって?こんなにも醜くて愚かでなんの意味もなさない言葉を綴ることでしか自分の呼吸を整えられないのに?やらなくちゃいけないこともできないで、何が夢を追いかけるだよ、馬鹿じゃねぇのと思ってる。研鑽も精進もない自分が、何を追いかけるって?何、希望なんて、未来なんて口にしてるんだろうって思う。
 自分が理想を追いかけるだけの意思を持たないということにもかなり前から気づいていて、そんな自分のことを変えられもしないから嫌いだ。ああ、そうだな、基本的に自分は自分自身が嫌い。生まれたことを憎くは思わないけれど、いまだに生きながらえていることには苛立っている。じっと鏡の前で見つめたときに見える虹彩の色すらも憎い。全てが終わればいいのにと思う。私は素晴らしい人間なんかじゃないのに、誰かと関われるのだろうかと思う。

 社会になじむために捨てたことなんていくらだってあるのに、まだ馴化できていない気がして気持ち悪い。ずっと疎外感がある。サブアカウントをフォローしあったって孤独が消えるわけじゃないでしょう。いくつアカウントを作ったって、ふとした瞬間に大きな波として襲ってくる孤独感や不信感は拭えなかったでしょう。恋愛をしようってそんなに簡単にできるわけもなくて、だってどんどん不安になる。誰にも愛されていない気がする、見栄を張っていないと頼りがいのある人だと思ってもらえないと相手にとって有益じゃないと、そうやって恋愛じゃなくてプレゼンテーションになるのは目に見えている。頼ってしまうと都合がよく見えるでしょう。どこまでを見せたら信頼してもらえるんだろうと思う。どんな頼り方が正解なのかなんて知らないからまた疎遠になる。きっとあの人は時々僕を思い出して苦虫を嚙み潰したような顔をするだろう。そういう関係しか築けなかったから。だから他人を大切にできない、家族を大切にもできない。
 居場所がないのは自分が原因だ。かみさまを頼れないのも僕がかみさまを信じられないからだ。あの子に全てを言わなかったのは正しい。あの子は僕の本性をしったら軽蔑するだろうから。知識だけが味方だと知っているのに、その知識すら大切にできない。どこに行けば誰にも気づかれずにうつくしい人間のフリができるのだろう。

 暗がりの中、李徴が李徴だと気づいてもらえていてうらやましかった。昼の方が時間が過ぎるのが遅くて嫌いだ。李徴じゃなくて僕が虎になりたかった。臆病な自尊心、尊大な羞恥心とは僕のためにある言葉だと信じて疑わない。僕も虎になりたい、なれないと知っているのに、なりたいと呟いている。

 

 どこまでも君のいない昼を泳ぐことに慣れてしまいそうだ。君はどこにもいない。誰でもない、誰にもなれないのに。星の見えない昼にどこに向かえばいいのかわからない。